アウティングの恐ろしさ

自分が自分であるための1つの方法として、自分が何者であるのかをきちんと表現することです。
ただ、性別の違和についてを他者に表現するのは、かなりハードルが高いのも事実。
ところが自分のそれを、他者が勝手にしてしまうことがあります。
今回は、そんな『アウティング』について、お話していきます。

そもそもアウティングとは？

自分で自分のことを周囲に伝える行為を、
カムアウト（カミングアウト）
と言います。
『カム』と略すこともあります。

自分の意志で周囲に自分のことを表現することが、カミングアウトです。

ところが、自分では無い誰かが、自分のことを勝手に周囲に伝えてしまう行為があります。それを、
アウティング
と言います。

自分の意志とは関係なく、勝手に自分のことを表現されてしまうことが、アウティングです。

アウティング被害

誰にでも、大なり小なり何かしらの秘め事はあるかと思います。
ここでは、隠す必要はなくても、話さなくても良いならば話さないでおきたいことも秘め事に含ませてください。

性別の違和に悩んでいるAさんが、カミングアウトをしようか悩みに悩んで、仲が良いBさんに勇気を持って告白したとしましょう。
Bさんは驚くかもしれませんし、やっぱりねという反応かもしれませんし、そうではない違った様子かもしれません。いずれにしても、Bさんへのカミングアウトが無事に済み、Bさんもこれまでと同じように仲良く接してくれました。
ここまでであれば、めでたしめでたしなのですが……

時は流れて10年後。
AさんとBさんの仲は続いていて、今日はふらりと目に付いた居酒屋に入りました。二人とも、初めてのお店です。他愛の無い話をしつつ、いつものように仲良くお酒を酌み交わしながら楽しく過ごしていました。
でもこの日、Bさんは少し飲み過ぎてしまったようです。
これ以上飲ませたら家に送り届けなきゃならなくなると思ったAさんは、ここでお開きにしました。Bさんも、それに素直に従います。
お会計のとき、Aさんがひとまず全額を払って、あとでBさんから半分をもらおうと思ってレジで精算をしていると……Bさんが、レジの店員さんに思いもよらないことを大きな声で言ったのです。

「すごいでしょー。Aはね、元は男性だったんだよ！」

Aさんは誰がどう見ても女性にしか見えないし、声や言動も一般的な女性のそれです。なので、この居酒屋にいる誰もがAさんを女性と認識して、それぞれの時間を過ごしていたのです。
それがこの一言によって、店内が静まりかえりました。
全ての視線が、Aさんに集まります。

Aさんは震える手で代金をトレイに乗せると、お釣りを受け取らず逃げるようにしてお店から立ち去りました。

ここでは周りは誰も知らない人ばかりだったので、その場限りでの辛さで済みましたが、もしもAさんのことを知っているCさんという人物が、たまたまその場にいたとしたら。しかもCさんは、Aさんの過去など全く知らず、普通に女性だと認識している人だったとしたら。さらには、スピーカーのように何でもかんでも話してしまう、口が軽い人だったとしたら。もっと言えば、Aさんが所属している組織の一員だったとしたら。

これが、アウティングの怖さです。

Bさんが酔っていたとはいえ、アウティングをしてしまったばっかりに、CさんにAさんのことが知られ、Cさんはそれを大スクープのようにLINEで仲間に報告。その話は全く間に組織の全員が知ることになり、Aさんはそこに居づらくなってしまいました。
なおBさんは、酔っていたのでそんなことを言った記憶は、全くありませんでした。

アウティングを避けるにはカミングアウトに気を付けるべし

カミングアウトをする場合、その相手の性格や言動をきちんと知った上で行いましょう。Bさんが酔っ払うと余計なことを言う性格だということを、カミングアウトをした当時のAさんは知りませんでした。
10年の間にAさんはSRSを受け、戸籍の性別も変え、望んでいた性別で社会生活を一般的に送っていたのです。
戸籍の性別が変わった以上、Aさんは性別に悩むこともなくなったので、カミングアウトなど必要のない人生を歩んでいました。

不要なカミングアウトをする人が、時々います。
それこそ戸籍の性別変更が済み、法的にも社会的にも望みの性別（本来の性別）として生活できる環境が整ったというのに、わざわざ『私は元の性別が……』とカミングアウトしてしまうのです。
その必要性は、どれくらいあるのですか？
何のために大変な手術を受けて、戸籍まで変えたのですか？

その性別として社会で生きていくことが難しそうだから、怖いから、もしも感づかれたら……などと思うからこそ、
『もしも前の性別っぽいことをしてしまっても、前もって言っておけば免罪符になるよね』
という、極めて自分勝手な思考をするからこその不要なカミングアウトです。

そんなカミングアウトをしようと思ってしまうくらいならば、どうしてもっときちんとした実生活経験（Real Life Experience）をしておかなかったのでしょうか？どうしてもっと自分磨きをしておかなかったのでしょうか？
自分の怠慢で不要なカミングアウトをすることによって、周りは余計な心配や配慮をせざるを得なくなり、ただただ迷惑を掛けてしまうのです。そうなれば、周りは関わるのが面倒と思うでしょう。結果として孤立して、その場での居場所を自ら失うのです。

自分で自分をアウティングしちゃうなんて、愚の骨頂ですよ。
まさか、自分の敵が自分だったとは……そんなの誰が想像したでしょうか。